その他 能楽外縁観測第4部-3 山河草木の場合
2022-08-15
では、「山・河・草・木」等の自然物の文字を数えて見ましょう。
グラフでは山河草木だけではなく、「草木海野原国土」も一緒に示しました。
「山」が圧倒的に多く、1曲当り平均で6.9回あり、全体の9位でした。最初に取り上げた「花」の6.1回より多くなっています。
続く「木」は3.8回で28位、「国」が3.1回の35位となっていました。
「国」は自然物ではありませんが、謡曲には「草木国土悉皆しっかい成仏」という文句が度々出てきます。意味は「草木や国土のような非情なものでも、ことごとく成仏できる」という仏教の教えです。それで、「国」も並べて取り上げたものです。実際の謡曲には、単に「国」と謡うほかに、「伊勢の國・相模の国」や、「国土・国々・諸国・東国」などと多用されています。
続いて多いのは、「草・野」で、2.3回の70位となっています。
山河草木を曲柄別に数えたのが、5.のグラフです。河と川を一緒にして示しました。
どの曲柄でも「山」が一番多く、次に5番目を除けば「木」が多くなっています。
「山」は景観や山の名を示すなど、良く利用されています。日本はどこに住んでも山が見えますから当然の結果と思われます。
曲柄で見ると、5番=鬼物で特に多く、1番=神物も多くなっています。鬼や神など目に見えない一種の異界なものは、山のような大きさが背景に必要なのでしょう。
反対に、4番=狂物では少なくなっています。人間の情が絡んで悩む世界は、コマゴマとしていて、大きな「山」には縁が薄いようです。
「木」が多いのは、2番=男物と3番=女物です。この二つの曲柄では、何故か「草」・「河+川」も多くなっています。
鬼や神と違い、人間には身近に潤いのある自然が大切なようです。特に可憐な「草」は女性には欠かせないのでしょう。全体平均の1.8倍も「草」が2番=女物に使われています。
神と鬼を比べると、「木」は神が鬼の2.4倍、「草」は神が鬼の半分以下となっています。
「神の木」はあっても「鬼の木」はないということなのでしょう。また、神は「草」とは縁がないようです。
【予告】次回は「第4部-4 松竹梅や桜など」です。
次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。