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その他 能楽外縁観測第4部-4 松竹梅や桜など

2022-09-01

自然物続きで、植物の「松竹梅」などを数えてみます。「桜」なども一緒にグラフにしました。
圧倒的に「松」が多く使われていました。松は「松樹千年翠:しょうじゅせんねんのみどり」と言われるとおり、風雪に耐えてみずみずしい緑色を永く保ち続けることから、松を称たたえる「老松」の曲があるように、謡曲ではめでたさの象徴として多く出てきます。1曲平均2.5回は全体の65位です。

能舞台の鏡板に描かれている老松は「春日神社の影向ようごうの松」とされています。影向とは神仏が現れることで、松はその依り代しろです。能は神仏への奉納として演じられますから、観客席側にある一本松が鏡に写っていると見なして、鏡板と言われているのです。「寿」の文字を反転した形で松が描かれているとも言われます。
また、松は橋掛りにも大→中→小と配されて、異界との往来に距離を感じさせる工夫もされています。

続いて「桜」ですが、「松」の半分以下です。次の「梅」は、その6割程度です。
梅と桜の関係は、万葉集の梅110首・桜43首に対し、古今和歌集では桜70首・梅18首と順位が逆転しており、奈良時代は花と言えば梅を指し、平安時代からは桜を指すようになったと言われています。桜は日本でも自生していましたが、梅は中国中部原産で、遣唐使によってもたらされて珍重されたのが原因で、遣唐使の廃止後は桜が見直されたようです。平安末期から鎌倉初期に活躍した西行法師の桜好きも影響したでしょうか。謡曲は平安文学などを取り入れながら室町時代に作られたものですから、桜が梅より多くなっているのでしょう。(曲ごとの成立年代については、能楽外縁観測第2部参照)

続く植物は、「柳」と「竹」です。そして「紅葉」がこれらに肩を並べています。酒の代名詞にもなる「菊」や、神聖とされる「杉」は意外に少なくなっています。「橘たちばな」もほとんど出てきません。グラフにない檜ひのき・椎しい・樫かし・栗・楠くすのきも数えましたが、0.03回/曲以下で、欅けやき・銀杏いちょう・ブナはゼロでした。


7.のグラフは、比較的に多い松梅桜柳を曲柄別に示したものです。
1番=神物では、「松」が圧倒的に多く出て来ます。世阿弥が朝一番は「めでたさ」が大事としたからです。「梅」も他の曲柄と比べ多く出てきます。春の初めに香りを放って咲く「梅」は、神様の登場に相応しい清々しさがあります。

5・4・2番=鬼・狂・男物は、松だけではなく、他の樹木ともあまり縁がないようです。

3番=女物は、「柳」が他の曲柄より飛びぬけて多くなっています。水辺にそよぐ柳の緑が女性には似合うのでしょう。

他の花も数えましたが、グラフにするまでもなく少ない回数でした。「菊」の0.23回に続くのが「藤」の0.21回、「桃」は0.13回、「杜若かきつばた」が0.12回、「朝顔」が0.1回となっています。萩はぎ・椿つばき・撫子なでしこ・躑躅つつじ、百合ゆり・桔梗ききょうは0.04回以下で、紫陽花あじさい・山茶花さざんか・向日葵ひまわりはゼロでした。

【予告】次回は「第4部-5 神・仏・鬼などの文字数」です。


次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。

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