その他 能楽外縁観測第4部-6 生老病死の文字数
2022-10-01
お釈迦さまは、紀元前5世紀頃にインドの菩提樹の下で悟りを開いたとされています。そして、人生の「生しょう・老ろう・病びょう・死し」の四苦しくなどすべての苦を解決するために、「苦く・集しゅう・滅めつ・道どう」の四諦したいを説き、これが仏教の根本原理となりました。
そこで、この四苦の文字を数えてみました。どういうわけか「病」は1曲平均で0.1回しか使われていませんでした。謡曲では、病気のことをあまり取りあげていないようです。
グラフでは、「病」を除き、「死」と同義の「亡」の文字数を「死」に加え、曲柄別で表示しました。
平均では、「生」が一番多く1曲あたり3.1回出てきます。「老」が1.4回、「死+亡」が1.0回でした。
生老死を合わせて1曲あたり平均5.5回も出てくるのは、現代の一般的小説などに比べたら、相当に多いのではないでしょうか。中世の謡曲世界では、釈迦が指摘した人生の「苦」を、現代以上に身近で深刻な悩みとして受け止められていたようです。それでも「生」が一番多く、「死」の3倍あり、「老」の2倍となっていることに安堵します。また、前回に取り上げた衆生を救う神仏が6.4回と、生老死の合計より多く使われていることに、微妙なバランスと安らぎが読み取れます。
曲柄別では、2番=男物で特に「死」が多くなっています。武将や軍いくさがテーマのジャンルですから、当然の結果と思われます。また、「死」と対照的な「生」も多くなっています。生前を回想する場面があるからでしょう。
グラフで目につくのは、「老」が1番=神物と3番=女物で多くなっていることです。4部-3で「木」が神物に多いことを指摘しましたが、老木などと神は縁が深いようです。また、女性は「老」を気にする傾向が強いということでしょうか。
1番=神物には「死」が殆ど出てきません。神様には永遠の命があるからでしょう。
5番=鬼物は、生老死の全般が少なくなっています。鬼は生死や老いを超越した部分があるようです。
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