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その他 能楽外縁観測第4部-8 戦争関係の文字を数える

2022-11-01

昔の戦争は「軍いくさ」と書きました。「戦い」もあります。関係する文字としては、「攻」・「防」があり、「討う」ったり「切」ったりしますから、これらの文字も数えました。
戦争関係の文字は全般に少ない気がします。一番多い「守」で、1曲平均1.3回の138位でした。7文字を合わせて3.1回で、35位の「国」一字と同じ数になります。戦争関係の文字で「守」がずば抜けて多いということは、日本は昔から専守防衛だったからでしょうか。冗談としても何故かホッとします。
 
さらに、戦争関係の文字が少ないと言うことは、謡曲の描く世界は平和であることを示しています。謡曲本文は詩文で綴られており、詩歌と戦争が両立しない当然の結果となっています。

また、「討ったり」・「切ったり」より、「軍いくさ」・「戦い」が少ないのは、謡曲世界では集団による戦争より、少人数での争いの方が多いことを示しているようです。これも泰平な世界を描いているからなのかと安心します。


では、曲柄別に見てみましょう。「軍」と「戦」を合わせ、「攻」と「防」は省略し、「討」と「切」を合わせて13.にグラフ化しました。
この戦争関係の文字数では、曲柄による差がハッキリと出ました。

何といっても2番=男物は、源平の武将などを主人公にしているだけあって、3文字とも他の曲柄を圧倒しています。「軍+戦」は主としてこのジャンルのために使われていると言えます。「討+切」も他を圧倒しています。

逆に、3番=女物には、戦争関係の文字が殆ど使われていません。昔の戦争は男性だけのもので、女性には縁のないものだったようです。

他に目につくのは、1番=神物に「守」が圧倒的に多いことです。やはり、神々は人々を守ってくれるありがたい存在になっているようです。そして、神様は戦いなどしないので「軍+戦」の文字は使われていません。

5番=鬼物は、神物と同じ傾向になりそうなものですが、平均値に近い回数になっています。鬼は神より人間に近く、人間世界と同じように戦ったり、討ったり、守ったりしているということのようです。

4番=狂物は、神男女鬼のジャンルから外れた多様な曲を包含しているので、ほぼ全体の平均と同じ構成になっており、最初に述べた昔の「軍:いくさ」の状況がそのまま当てはまるようです。

【予告】次回は「第4部-9 僧など人物の文字」です。

次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。

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