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その他 能楽外縁観測第4部-10 喜怒哀楽などを表す文字

2022-12-01

感情を表す文字としては「喜怒哀楽」に集約されますが、少し細かく見てみようと思います。陽気な感情として「楽喜歓笑」、悲しいグループとして「涙哀泣悲」、それに「恋」、さらにあまり使われていない「怒寂淋嘆」の13文字を数えてみました。

その結果では感情を表す文字は、以外に少ないようです。13文字合計で1曲あたり5.2回に過ぎず、「花」1文字の6.1回にも及びません。
そこで、「思心」の2文字についても調べてみました。
「思」は8.7回も使われ、「心」は1.9回でした。
 これに次ぐのが「楽・悲・涙・恋」の1.3~0.7回となっています。

個別ではなくグループで捉えると、悲しいグループの「悲涙泣哀寂嘆淋」は7文字合計で2.7回/曲、楽しむグループの「楽喜歓笑」の4文字は合計で1.7回となります。

ほかに「恋」0.7回、「怒」0.04回があります。

一番多い「思」を曲柄別で見ると、5番=鬼物では、他のジャンルの1/3~1/4しか使われていません。鬼と好対照となっているのが1番=神物で、一番多く「思」が使われています。神は全てをお見通しの上で人々を思いやり、鬼は問答無用で「口より手の方が早い」のかも知れません。

次に多い「心」ですが、3番=女物で特に多く、2番=男物の倍以上になっています。やはり女性の心理は微妙で、謡曲でも言葉を尽くして表現しているようです。

4番=狂物も、我が子を狂ったように探し回る母が登場するのが本来のジャンルだけあって「心」が多く使われています。
感情の文字をグループで見たグラフでは、「恋」を除くと、平均では悲しいほうが2.53回で、楽しいことの1.73回より約1.5倍多くなっています。

詩歌という舞台は、アッケラカンとしたシチュエーションより、しみじみと愁いを帯びた情景がサマになるということでしょう。

曲柄別で見ると、1番=神物は感情を表す文字の8割以上を「楽」が占め、涙や悲しみ、恋にも縁がなく、神様の登退場には音が添えられるのが常識になっているようです。

2番=男物は、意外にも「涙」が他のジャンルに比べて一番多く、悲しみの文字も平均以上に使われています。男泣きが観客を引き付ける要素になっているのでしょうか。

3番=女物は、男物と反対に「涙」や悲しみの文字が少なく、「楽」のほうが多く使われています。そして、「恋」が他のジャンルより一番多く使われています。謡曲に登場する女性は、あまり泣いたりせず、恋したり楽しんだりしているようです。
また、感情を表す文字の使用が3.7回と、一番少ないジャンルになっていることが不思議です。女性の感情は、ストレートな表現ではない微妙な描写になっているのかも知れません。
なお、「恋」は男女関係とは限らず、昔を懐かしむ「恋しい」の意味でつかわれる場面の多いことを指摘しておきます。

4番=狂物は、悲しいグループの文字が楽しい文字などより2倍も多く、平均値を上げる主要因になっています。先にも触れましたが、我が子を恋しがり、悲しみの涙に泣く場面が想像されます。そして、他のジャンルより一番多く感情を表す文字が使われています。正気を保てないほどの出来事があれば、様々な感情が入り混じることは容易に想像されるところです。

5番=鬼物は、全体として感情を表す文字が少ないのですが、構成比は神物と大きく違って平均値に近くなっています。ただし、泣いたり悲しむ文字は平均より多くなっています。鬼が泣いている、又は、泣いている人を助けに鬼が出て来る、の両様が考えられ、やはり鬼は人間の近くで同じように振る舞う存在と理解すべきもののようです。

【予告】次回は「第4部-11 家族を表す文字」です。

次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。

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