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その他 能楽外縁観測第4部-13 文字抽出対象146曲の妥当性

2023-01-15

謡曲の詞章から、特定の文字を抽出するには、対象とする曲を選定する必要があります。能楽外縁観測第1部で、5流で現行の曲は異名同曲などを整理して、全部で248曲あることを示しました。そして、5流が共通して採用している曲が、146曲あることも示しました。
今回の文字抽出は全248曲を対象にすれば良いように見えますが、流儀別に見ると、採用の曲数や曲柄別構成に大きな違いがあります。詞章表現にも流儀による偏りがないとも限らないので、これを排除するために、対象を限定したほうが作業量も少なくなり、一石二鳥の効果が得られます。
そこでまず、5流の全部が採用している146曲を対象とすることが、謡曲全体の把握に適切なものかを検証することとします。

最初に、146曲が現行全248曲に占める割合を流儀別に確認しておきます。
グラフで示せば次の通りです。
グラフで見るように、全248曲中の146曲は、59%となりますが、流儀別で見ると、どの流儀でも約7割以上(69~86%)の抽出率となります。これは、ほぼ全体の傾向を把握するに問題のないことを示していると考えられます
また、全248曲を対象とする場合に比べ、流儀による偏りを除けるものと期待されます。
次に、146曲が曲柄別に占める割合を確認しておきます。(曲柄についての詳細は能楽外縁観測第1部を参照ください。世阿弥の序破急理論が応用されています。)
グラフにすれば次の通りです。
グラフで見ると、1番目の曲についての抽出率が40%と少なくなっていますが、他の2~5番目の曲については、54~81%と多数を占めています。

1番目の曲は、5番立て演能では翁の次に演ずる曲として脇能と呼ばれ、他の曲柄と比べ1流のみで採用している曲の比率が高く、公平に対象を増やす方法も見つかりませんので、やむを得ずこれで妥当とします。

曲柄別には、もう少し詳しい検証が必要なようです。曲柄については、外縁観測第1部で詳細に示した通りですが、本籍(本来の曲柄)と略番(準用可能な曲柄)がありますので、146曲についてその内訳を示すと次表のとおりです。
黄色の太字部は、本籍以外の略番設定がない曲となっており、その意味で純粋な曲柄と言える曲数となります。

表から本籍2番目の曲は略番設定がなく、本籍1・3番目の曲は略番が2割以下になっており、曲柄別分析に耐える構成となっています。(1番目は「神物」、2番目が「男物」、3番目は「女物」物の曲と呼称されています。)

4・5番目の曲は、曲柄をまとめる曲の選定が困難あることを示しています。4番目の曲は「狂物」とも称されますが、元々他の曲柄に属さない雑多な曲を含むので、意味のある細分には無理があります。まとめてそれが4番目の曲なのだと理解するしかありません。5番目の曲は「鬼物」になりますが、鬼神など略1番の曲が1/3以上を占め、これを除くことのメリットとデメリットの判断は困難です。

以上より、曲柄から見ても5流が共通して採用している146曲は、謡曲全体を把握するのに充分な資格があるものと判断しました。


【予告】次回は「第4部-14 曲柄構成とテキストの検討」です。

次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。

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