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その他 能楽外縁観測第4部-18 使用頻度の高い40文字

2023-04-15

それでは抽出した文字を示します。現行謡曲全248曲を、5流が共通して採用している146曲に代表させて、特定の文字を抽出したものです。謡曲の詞章によく使われていると思われる特定文字の出現回数を数えあげたものです。
順番に示しますが146曲の合計回数では、出現頻度を感じにくいので、1曲あたりの回数で示すこととしました。
始めに1曲当り平均で3回以上も使用されている文字をグラフで示します。
最初のグラフ①は、全体で1~10位の文字です。最も頻繁に使用されている文字は「ソウロ」で1曲あたり30回近くに達します。続いて「オン」の約20回です。10位の「タマい」で約7回の使用頻度です。
この10位までの文字について詳しく見てみます。
1位・「」ソウロ:29.3回/曲
ダントツに多く使われている文字となっています。文末の候ソウロをはじめ、候ソウラへ、などの形で多用されています。数えると文末だけでも1曲あたり13回あります。1曲当りの平均文章数は約210でしたから、全文章の6.2%の文末が「候」になっていることになります。(ここでは「候へ」を文末としては数えていません。)逆に9割以上の文章は「候」以外の文字で終わっています。明治の頃に文体をどうするかが問題になり、所謂イワユル候文ソウロウブンが盛んになりました。少なからず謡曲が影響を与えたことは確実と思われます。しかし、謡曲の文末の「候」は意外に少ないことが示されました。

2位・「」オン:19.5回/曲
謡曲の文章では、名詞などに「御」を付けた丁寧語が多用されています。御覧ゴらん,御身オンみ、御事オンこと、御代ミよ、御座ゴざ、御前オンまえ、御心オンorミこころ、御法ミのり、御オン僧、などです。全文章の約9%に出てくる勘定になります。文章が10個あれば、そのうち1個には「御」が使われているのです。能では、どんなに貧しく落ちぶれた老人などでも、例えば、島流しにされた俊寛でも、汚いボロを着るようなことはしません。あくまでも品位を保って演じます。謡曲の文章も喧嘩のような場面があったとしても、口汚く罵るようなことは決してありません。正々堂々と相手を敬う丁寧な言葉使いで、品を保っています。こういう所が能の大きな特徴ではないでしょうか。能舞台で松の描かれた鏡板には神が宿っているとされています。神の前で下品な振る舞いや言葉使いは出来ませんから…。

3位・「」ヒト:11.3回/曲
 この字も多く出てきます。人の…、人に,人を…、人は、旅人、人々、老人、などと多様に使われています。

4位・「」モウす:9.6回/曲
申し、申す、申させ…、などと使われ、全文章の4.5%に登場しています。現代では「言・云」の謙譲語に相当しますが、言葉遣いを柔らかく感じさせる効果もあるようです。

5位・「」オモう:8.7回/曲
思ひ、思ふ、思へ、思オボし、などと頻繁に使われています。能は心理劇でもあり、必要不可欠な言葉になっているのでしょう。

6位・「」ミる:8.3回/曲
見え、見れ、見る、見せ、見て、などとよく出てきます。

7位・「」コト:7.3回/曲
事に…、…の事、御オン事、…事の候、などと使われています。

8位「」ココロ:7.1回/曲
 心の…、心を、心な…、心に…、などと多用されています。「心」も「思」同様に欠かせない文字になっています。

9位・「」ヤマ:6.9回/曲
…の山、山伏、山陰ヤマカゲなどと沢山出てきます。

10位・「」タマわる:6.9回/曲
給タモふ、給へ、給ひ、などと使われています。

次のグラフ②は、1曲当り4回以上使用の文字で、全体で11~25位のものです。
11位が「此コの」の6.4回、25位が「行」の4.0回の出現頻度となっています。
注目される文字は、今、花、我、月、日です。
なお、「参」は数字の「三」も加えています。

最後のグラフ③は、1曲当り3回以上4回未満使用の文字で、全体で26~40位です。
注目される文字は、神、木、子、国、生、水です。

1曲で平均3回以上使用されている多用文字は40字あり、再掲すると次のとおりです。

1~10位(約7回/曲以上)
   候 御 人 申 思 見 事 心 山 給
 
11~25位(4回/曲以上)
 此 今 花 何 参・三 身 一 我 名 月 世 日 出 立 行

26~40位(3回/曲以上)
   夜 神 木 子 時 上 大 聞 来 国 者 生 水 程 波


【予告】次回は「第4部-19 使用頻度の高い172字」を5月1日に掲載する予定です。

次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第4部」をご覧になる場合は「謡曲の統計4」から進んで下さい。

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