その他 能楽外縁観測 第5部-2 世阿弥期演目の現代人気度
2023-06-30
それでは、世阿弥期演目で現行曲となっている曲について、現代における人気度をグラフで示します。
前節で分類した、Aを大人気曲、Bを人気曲、Cを時々演能、Dを稀に演能、としてグラフ化しました。また、比較のために現行曲全体についても同じ基準で並べて掲げました。なお、Eグループは演能回数調査の対象外となっていますので、グラフには出していません。
①は世阿弥当時から継続して令和現在も現行曲となっている曲です。600年間も継承されながら、その約6割が現代においても人気曲となっています。世阿弥も驚いているのではないでしょうか。600年後の現行曲③で、人気曲103曲(45+58)のうち42曲(17+19+2+4)が①②の世阿弥期演目であり、4割を占めています。現代において観世流だけで毎年4回以上も上演されている曲の半分近くが室町初期から続く演目だったとは予想はしていても驚きです。
②は世阿弥期演目であったものが一時中断され、江戸期に再興されて現行曲となっている曲です。一旦廃された曲がどうして再興されたのか、という視点で見ると興味が湧いてきます。曲目を増加させる必要があったとしても、廃曲を引っ張り出すとは、どういうことなのでしょう。人気度で見ると6割以上の曲が、時々または稀にしか演じられていません。しかし曲名を見ると、習い物となっている「砧・恋重荷・摂待・求塚・弱法師」があり、また謡いものとして評価されている「歌占・蝉丸」もあります。やはり名曲を復活させた意味もあるようです。曲柄のバランスをとる必要もあったのでしょうか。後で別に検討することとします。
③は現行曲のグラフですが、人気曲とそうでない曲がほぼ半々になっています。また、60年間の平均で、1年に1回以上は演じられる曲から外れて、稀にしか演じられない曲が2割近くもあります。観客から要望がないのか、能楽師が敬遠しているのか、興行的に難があるのか、それとも駄作で演ずる価値がないのか、気になるところです。あるいは、たとえ数年に1回でも演じ続けているのが能楽師の矜持なのでしょうか。
次回は、世阿弥期演目の曲柄をグラフで示します。
引き続き第5部をご覧になる場合は、「謡曲の統計5」から進んでください。