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その他 能楽外縁観測 第5部-4 世阿弥期演目の作者構成

2023-07-31

では、世阿弥期の演目で現行曲として伝存している87曲について、その作者構成を示します。比較のため、現行248曲の作者構成も示しました。
グラフを一見して驚くことは、世阿弥期の演目における世阿弥作品の割合の多さです。全体の2/3が世阿弥作品で占められています。また、逆に作者不詳が約10%という少なさにも目が引かれます。

現行248曲の構成では、世阿弥作が1/4強に減少しています。曲目数では58曲から僅かに8曲増えて66曲となっています。このことは世阿弥の作品の多くが世阿弥当時から演じ続けられ、後世の演目に加えられた曲は1割強にとどまっていることを示しています。

世阿弥以外の作品では、世阿弥期で11人・19曲から、現行24人・94曲と大幅増となっています。作者人数で倍増、曲目数は約5倍となっています。

また、作者不詳の曲が、10曲から88曲に激増しています。年代が下って作られた曲ならば、作者の判明率が上がる筈ですが、奇妙な現象です。室町後半の100年余に及ぶ戦乱で記録が失われた結果でしょうか。作品が残って作者が不明ということは、著作権などなかった時代で、作者に対する敬意も低かったものと思われます。

ここで、曲目ごとの作者について説明しておきます。能楽外縁観測では、「能楽大辞典」(2012刊・小林責他著・筑摩書房)の作者付けを参照しながら、作者不詳とされた曲を中心として強く想定される作者を充てています。詳細は第2部をご覧下さい。また、作者別曲名一覧・曲名50音順作者一覧も第2部-11で示しています。

この節の最後に、①世阿弥期演目と、③現行曲の作者別作品数の比較表を示します。上の円グラフの根拠となっているものです。
世阿弥作では、現行曲の約9割が世阿弥期演目で占められていることが分かります。

そして、世阿弥期又はそれ以前に活躍した犬王・金春権守・世阿弥息男の本能については100%が世阿弥期の演目でした。

世阿弥の父観阿弥・嫡男元雅や先輩に当たる喜阿弥の作品も世阿弥期演目の割合が高くなっています。

後代の観世信光・長俊父子や、室町中期活躍の宮増の作品は、世阿弥期演目に余り含まれていませんが、時の経過から見れば当然のことと考えられます。

一方、世阿弥の娘婿・金春禅竹の作品が世阿弥期演目には少なかったのは意外です。後世になって増加したのは、秀吉の金春贔屓が影響しているのかもしれません。

(能作者の紹介については、能楽外縁観測第2部を参照して下さい。)

次回は、世阿弥期演目の総数について補足しておきます。その後に江戸期以前の演能状況を見る事とします。

引き続き第5部をご覧になる場合は、「謡曲の統計5」から進んでください。

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