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その他 能楽外縁観測 第5部-11 室町期の曲目別演能頻度

2023-11-16

ここまで世阿弥期(1375~1434)、室町中期(1452~1531)、室町後半期勧進能(1464~1564年)の演目や演能回数を見て来ました。
本節では、これらの曲と現代の演能状況の関係を調べてみようと思います。昔によく演じられた曲は現代でも同様によく演じられているのか、そうでもないのか、調べないと分かりませんから。

最初に3回に分けて見てきた演能曲目や演能回数を確認しておきます。
世阿弥期は、散佚曲等を含めて138曲があり、このうちの現行曲は87曲で、演能回数は把握されていませんでした。室町中期は154曲・310回(現行曲は112曲・250回)、勧進能は101曲・142回(現行曲は83曲・121回)でした。現行曲を単純合計すると延333曲となり、同じ曲の重複を除くと155曲となります。

次に、演能回数を曲別に合計することになりますが、ここでは、単純に回数を数えるのではなく、実態をよく反映させるために次のように重み付けをすることとします。

①世阿弥期演能の曲名は資料から把握できましたが、その回数までは分かりませんでした。また、この時期の演能は能楽の原点であり現在に至るまで多大な影響をもたらして来ました。そこで、この時期についての演能実績曲を2点として数えることとします。87曲で計174点となります。

②室町中期と5種勧進能は一つの演能が両方に数えられている期間(1464~1531の68年間)があります。これを峻別するのは原資料に戻って調べる必要があり、ブログ子では到底出来ません。この期間の重複分はマイナスにすべきですが、勧進能が観客を意識して選曲されているとの観点から、若干の重み付けしてもいいのではと考え、中期演能と勧進能については、それぞれ1回を1点として数えることとします。ここまでの総計で、155曲・545回(点)となります。

③曲別に合計回数(ここでは重み付け点数)を示しても全体の傾向を把握できませんので、全155曲を次のように4グループに分けて示すこととします。

◎:7回以上=20曲;13%   〇:6or5回=21曲;14%
□:4or3回=45曲;29%   △:2or1回=69%;45%

次に、現代の曲別演能頻度(これまで人気度と呼んできました。)の概要を再掲しておきます。データは大角征矢氏公表の昭和25年1950から平成21年2009の60年間の演能実績値で、有料公演全208曲・72420回(観世流以外の演能及び大典・三山・松浦佐用姫は集計対象外)です。ここから年間平均演能回数を元にA~Eにグループ分けしています。参考までに現行曲248曲の内訳も示しておきます。

A:大人気曲(毎年平均10回以上)45曲;18% 
B:人気曲(4回以上10回未満/年) 58曲;23%
C:時々演じられる曲(1回以上4回未満/年) 64曲;26%
D:稀にしか演じられない曲(1回未満/年)41曲;17%
E:演能実績調査対象外の曲(観世流非現行等)40曲;16%

では、室町期の曲目別演能回数と現代の演能頻度(回/曲≒点数)の関係をグラフで示します。
グラフから室町期に度々演じられ曲は、現代でも非常に良く演じられていることが分かります。室町期で7回以上演じられた20曲は、全曲が現代で毎年1回以上演じられ、その80%が毎年4回以上も演じられています。

逆に室町期で1回か2回の演能記録しかない69曲は、現代で年4回以上演能の曲は4割台で、1回以上の曲としても7割にもなりません。2割以上の曲が年間平均回数1回未満演能の曲となっています。

室町期によく演じられた曲は現代でもよく演じられる傾向のあることが明瞭になりました。以下に室町期演目155曲うち、3回以上演能の◎〇□の86曲(55%)を50音順で示しておきます。

凡例
◎:室町期で7回以上演能=20曲;13%(%は室町期演能155曲に対する構成比。以下同様)
〇:6or5回=21曲;14%   □:4or3回=45曲;29%
A:現代で10回以上/年=20曲;13%    B:4回以上/年=29曲;19%
C:1回以上/年=24曲;15%        D:1回未満/年=6曲;4%
E:実績調査対象外=7曲;5%
数字:現行で採用の流儀数(但し5流の場合は数字を省略し、1流の場合はその流儀を宝春剛喜で略記。なお、観のみの曲はない。)この内訳は次の通り(この%だけは86曲に対する比)。 5流=72曲;84% 4流=6曲;7% 3流2曲;2% 2流2曲;2% 1流4曲;5%
ゴシック:現代で大切にされている習い物曲=13曲;8%

室町期3回以上演能曲一覧
葵上〇A 芦刈□B 敦盛〇B 海士〇A 井筒□A 鵜飼◎A 浮船□C4 右近□C3 歌占□B 善知鳥□B 江口〇B 老松□C 姨捨〇C 女郎花□C 杜若◎A 柏崎◎C 春日龍神□C 葛城□A 通小町◎A 邯鄲◎A 咸陽宮□C 砧〇B 清経□A 鞍馬天狗〇B 車僧□B 呉羽□D 源氏供養□B 源太夫□E春 元服曽我□E喜 恋重荷◎B2 項羽□C 西行桜〇B 桜川□C 実盛◎B 自然居士◎B 舎利□C 春栄□D 鍾馗□C 昭君〇C 猩々〇A 隅田川〇A 誓願寺〇C 摂待〇D 蝉丸□A 卒都婆小町◎B 泰山府君□E剛 当麻◎C 高砂◎A 忠度□B 竜田□B 田村□A 壇風〇E3 土車□D2 定家□C 藤永□E4 東岸居士□C4 東北□B 融〇A 木賊□C 朝長◎C 難波□C 錦木◎C 鵺〇B 野守□B 白楽天〇C4 百万◎A 二人静◎B4 船橋〇C 放下僧〇B 放生川□D 松風◎A 松尾□E宝 松虫□B 三井寺◎B 通盛□B 御裳濯□E2 三輪□A 盛久◎B 屋島◎A 山姥◎A 夕顔□B3 弓八幡〇C 熊野□A 楊貴妃□B 養老〇B 吉野静□D

曲名を眺めると身近に演能のあった曲や素謡スウタイ会で取り上げられた曲が多いことに気付きます。現行曲の演能頻度が室町期の演能回数で関連付けられるとは、予想はしていても改めて驚かされます。

次回は2023.11/30に第5部-12「織豊期の演能状況」を掲載する予定です。
なお、2023.11/15に節を飛ばして次回分を誤って掲載してしまいましたので、11/16本日、修正しました。混乱させてすみませんでした。

引き続き第5部をご覧になる場合は、「謡曲の統計5」から進んでください。

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