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その他 第6部-12 将軍宣下祝賀能の曲目集計

2024-07-11

5部-28の将軍宣下祝賀能の演目&流儀の3表の400番を、曲名ごとに集計して回数を数えると次のようになります。現行曲・非現行曲・切能に分けて示します。(ゴシックは観世流で習い物の曲となっています。同じ回数の曲名は50音順としました。)

①現行曲(81曲・341番)
60回:翁(1日の最初に必ず演じられています。)
11回:東北、羽衣(計2曲)
10回:箙、善界、田村(3曲)
9回:賀茂、高砂、芭蕉、屋島(4曲)
8回:老松、実盛、弓八幡、熊野(4曲)
7回:石橋、難波(2曲)、
6回:江口、烏帽子折、忠度、道成寺、橋弁慶(5曲)
5回:鞍馬天狗、張良(2曲)
4回:碇潜、白鬚、竹生島、土蜘蛛、知章、半蔀、船弁慶、紅葉狩(8曲)
3回:葵上、猩々乱、天鼓、野宮、氷室(5曲)  
2回:嵐山、善知鳥、花月、通小町、源氏供養、小鍛冶、舎利、鍾馗、関寺小町、千手、東方朔、松風、三井寺、養老、羅生門(15曲)
1回:安達原、生田敦盛、鵜飼、女郎花、柏崎、兼平、清経、熊坂、車僧、項羽、桜川、自然居士、春栄、殺生石、大会、竜田、谷行、経正、藤栄、唐船、融、白楽天、放生川、通盛、三輪、六浦、盛久、山姥、頼政、輪蔵(30曲)

②非現行曲(3曲・各1番・計3番)
植田(1家康の2日目)、岡崎(1家康の3日目)、藤渡(2秀忠の3日目)。なお、1623年の3代家光以後の演目は全て現行曲として存続しています。

③1日の終わりの祝言切能(8曲・53番+曲名不明3番の計56番。但し、半能形式ではない「猩々乱」4回と「熊坂」の1回は①の現行曲に分類しました。)
13回:祝言呉羽クレハ
12回:祝言養老
10回:祝言岩船・祝言金札
3回:祝言高砂・祝言弓八幡
1回:祝言老松・祝言志賀

祝言呉羽や祝言養老などの曲は、特殊演出「祝言之式」小書で演じられ、半能形式に近い形となっていたようです。

なお、現行観世流で「祝言之式」小書のある曲は、嵐山、淡路、呉羽、逆矛、高砂、養老の6曲だけとなっています。上に示した岩船、老松、金札、弓八幡に、現在は「祝言之式」小書はありません。
現在の能会では、5番立てなどの番組は稀ですが、その場合には、いわゆる5番目曲の鬼神の登場する能で締め括っており、祝言○○という半能形式の演目を演ずることは稀なようです。現在は、5番立て納会に限らず、最後の能に祝言性が欠ける場合は、「附ツケ祝言」として、高砂の「千秋楽」や猩々の「尽きせぬ宿」などの目出度い句を地謡ジウタイが謡っています。

14回の初日・80番に限定してシテ方流儀をグラフにすれば次のとおりです。
前節の全400番のグラフと大きな違いはありませんが、細かく見ると次のことが指摘できます。

初日の割合が観世で特に多くなり26→32%となっています。宝生17→18%、金剛13→16%も若干多くなっていますが、金春は23→17%と大きく減少し、喜多も15→13%と少なくなり、金剛が喜多より多くなっています。

儀式的要素の強い初日とその他の日で演能頻度に差の出る理由は明確ではありませんが、「町入り能」と関係があるのかも知れません。

「町入り能」とは、将軍宣下など慶事に伴う演能の初日に限り一般町民が将軍や大名たちと一緒に観能が許された行事です。町民には入城のときに降雨に備えた傘が1本ずつ渡され、退出のときにはお酒とお菓子などが与えられました。観能希望者が多く、5000人以上が交替で入城したと伝えられています。(行事によっては最終日となる場合もありました。)

次回は2024.7/31に第6部-13「翁付き脇能」を掲載する予定です。

引き続き第6部をご覧になる場合は「謡曲の統計6」から進んでください。

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