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その他 第6部-24 江戸時代と現代の曲別演能状況のグループ化

2024-12-25

これまで展開してきた江戸時代220年間と現代60年間の曲別の演能頻度の関係をグループ分けして見てみます。(具体的な曲名は順次掲載します。)
A~Dは、江戸時代と現代の演能頻度が似た傾向になっている曲のグループになります。逆にE・Fは時代によって演能頻度に異なる傾向が見られるグループです。前者の合計は176曲で全体の75%を占めています。

つまり全234曲の3/4は時代が変わっても人気曲は人気曲として共通しており、稀な曲も時代による差が少ないことが分かります。

また、時代によって差のある曲は、58曲=25%だけで、全体の1/4の曲が、一方の時代である程度の人気があっても他方では稀な曲となっています。

以上より時代や社会が大きく違っても大部分の曲は人気曲や稀な曲の傾向が同じであることが分かりました。これは伝統芸能であることがその理由なのでしょうか、それとも人間心理を描く能に時代を超えた普遍性があるからでしょうか。外国人にも共感されるところを見ると、後者がその要因であることを示しているようです。あらためて世阿弥を始めとする能作者の先見性・芸術性を顕彰したいところです。

あとになりましたが、グループ分けの基準は次のとおりです。但し江戸時代は220年間を7期に分けて、それぞれの演能頻度による分類結果を基にしています。7期とは第6部-20の表で示したように、初期・中期(吉宗・家重・家治)・後期(家斉・家慶)・幕末で区分したものです。また、頻度のA(緑)・B(紫)の色分け基準は第6部-19の末尾に示した通りです。その上で今回のグループ分け基準を示すと次の通りです。

A:江戸時代の7期中3期以上でA or Bの曲で演能記録なしが3期未満、且つ、現代60年間で240回以上(緑 or 紫の曲=10年で40回以上)演能の曲。
B:江戸での演能記録有りが5期以上、且つ、現代で60回(10年で10回)以上演能の曲(但しAの曲を除く)。
:江戸での記録が4期以下、且つ、現代で60回未満の曲(但しDの曲を除く)。
D:江戸での記録が2期以下、且つ、現代で演能回数調査対象外の曲。
E:江戸での演能記録有りが5期以上、しかし、現代で60回未満演能の曲。
F:現代で60回以上演能、しかし、江戸での演能記録有りが4期以下の曲。

次に、現代で観世流の習い物曲の構成を、A~Fのグループ別で見てみます。習い物曲は他の流儀でも大切にされ、能楽師が精進する目標にもなっている曲です。これらの曲が江戸時代と現代でどのような頻度で演じられているかを比較してみます。
習い物曲は、全36曲の2/3以上の24曲(67%)がAまたはBの曲となっており、江戸時代でも現代でもよく演じられていることが確認できます。

また、江戸で余り演じられない曲が現代でよく演じられているFグループの曲に習い物曲が8曲(22%)もあることに注意を引かれます。現代はマスコミ等が新しいものや珍しいものを取り上げる傾向のあることが影響しているのかも知れません。習い物曲に限らず「新曲」や「複曲」などが大きく報道される現状が反映されているようです。

伝統芸能を評価するならば、繰り返し上演される曲でも、また同じ主演者でも演技の工夫が詰まっており、囃子方など演者の組み合わせにも変化があり、本当に1回限り・一期一会の能を、その都度、新味を嗅ぎとって興味深く的確に伝えて貰いたいものです。

次に全曲をグループ分けした具体的な曲名を示していくこととします。最初に全体の状況を図示します。黄色は観世流百番集所収曲、色なしは続百番集所収曲、ゴシックは習い物の曲を示しています。(以下同様です。)
A・Bの曲は江戸と現代でよく演じられている曲のグループで、昔で云うポピュラーな曲を収めた内百番の曲が多く、左下側とDの曲は両時代で殆ど演じられない曲となっています。何れも曲名は次節で示します。

上図の左上の32曲は、江戸時代でよく演じられながら現代で余り演じられない曲となっており、現代でやや特殊な扱いで、見たらり聞いたりする機会が少ない曲となっています。

右下の26曲は、現代でよく演じられながら江戸では余り演じられなかった曲となっています。現代でよく見たり聞いたりする曲が並んでいますが、江戸では違っていました。注目されるのは、先に記したように習い物曲が8曲も含まれていることです。

次回は2025.1/31に別表A・B・Dの具体的曲名を、第6部-25「江戸時代と現代の曲別演能状況グループ内訳」として掲載する予定です。

引き続き第6部をご覧になる場合は「謡曲の統計6」から進んでください。

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