能楽 謡曲教室 迦謡会

第5・6部で室町・江戸時代の演能状況を見てきましたが、第7部ではもう少し細かく徳川各将軍の期間別に曲別演能状況を見ることとします。（江戸時代の勧進能は第8部で掲載します。）

徳川将軍期別演能状況　目次

第7部-1　徳川将軍期別演能状況　序
第7部-2　江戸時代合計・秀吉＆1家康期・2秀忠期
第7部-3　3家光期・4家綱期・8吉宗期＆幕府への書上げ
第7部-4　9家重期・10家治期・11家斉前期＆観世元章
第7部-5　11家斉後期・12家慶期・13家定期
第7部-6　14代家茂将軍期
第7部-7　徳川将軍期別演能上位曲の推移

はじめに演能記録データを将軍期間別に比較したグラフを示しておきます。

グラフから将軍期間や演能回数等に大きな差のあることが分かります。

記録期間を見ると⑪家斉がダントツの50年間もあり、②秀忠・③家光・⑧吉宗・⑩家治の4期間は25～29年間となっています。秀吉/家康期・②秀忠・④家綱・⑨家重・⑫家慶の5期間は15～19年間とやや短い期間になっています。そして幕末の⑬家定・⑭家茂は5年未満と非常に短い期間になっています。

演能番（回）数で見ると、幕末2代の各100番余りを除くと、各期間とも500番以上の演能が記録されており、特に③家光・⑧吉宗・⑪家斉の期間では1800～2100番を数えています。

年間平均演能番数で見ると、②秀忠・③家光・⑧吉宗の期間では70番以上の演能があるのに対し、他の期間では年間34～41番と半減しています。特に⑬家定期は更に半減した21番となっています。しかし、最後の⑭家茂期では34番と回復しています。

曲目数を見ると、秀吉家康期の119曲から始まって次の②秀忠期で141曲に増加しましたが、④家綱期で105曲に減少しています。その後江戸中期の一部期間のデータが欠損していますが、江戸中期の⑧吉宗期で194曲に急増して、以後175、205曲と推移しています。そして江戸後期の⑪家斉期は50年間という長さの影響もあってか最多の206曲を数え、次の⑫家慶期は17年間の短さもあって167曲に減少しています。幕末の⑬家定・⑭家茂期は5年未満の影響なのか半分以下の65曲に急減しています。

グラフの元となった数値表を掲げておきます。（期間別曲目数の表は省略しました。）

なお、江戸時代中期の一部、⑧吉宗の前期、及び⑭家茂の後期について、演能記録データが欠けていることもご了承ください。（欠ける期間の詳細や演能記録データと将軍在職期間の対照は第6部－3、15をご参照ください。）

このあと将軍期間別の演能状況を見て行きますが、ここでは曲別演能番（回）数をもとに、いくつかのグループにランク分けし、そのランク別曲数をグラフで見ることとします。（ランク分けの具体的な方法は、その期間で一番多く演じられた曲の演能番数を30で割り、全体を30ランクに分けることとします。）また、期間ごとに非常に多く演じられた曲名も示すこととします。

将軍期間別のグラフを見る前に、比較対照のために現代の曲別演能回数状況を見ておきます。

現代の60年間（1950～2009）では演能が207曲・72412番（回）あり、30ランクに分けるには最多の「羽衣」が1868回なので、1/30の約62.3回ごとに1～30ランクとして該当曲数を数えることになります。結果として、第1ランクは1806～1868回演能の曲となって「羽衣」の1曲が該当し、第2ランクは1742～1805回で該当する曲がなく、第3ランクは1679～1804回で「葵上」（1686回）の1曲が該当します。同様に分けると最下位の第30ランクには、64回演能の「東岸居士・鳥追船」～3回の「代主・放生川」の45曲が該当します。これをグラフにすれば次のとおりです。（現代のデータ典拠は第5部－1又は第2部－3をご参照ください。）

グラフから上位ランクに該当する曲数は非常に少なく、多くの曲が第25ランク以下に含まれることがわかります。計算すると、第1ランクの1/3以下の演能回数となる第10ランクまでの曲で2.4％、第15ランクまでで6.2％、第20ランクまででも21％程度にしかなりません。第25ランクまでで41％です。半数以上の曲が第26ランク以下となっています。そして最下位の第30ランクだけで45曲・27％となっているのです。

上位ランクの曲には、「船弁慶・安達原・小鍛冶」など場面転換や演出に工夫のある曲が並ぶとともに、「羽衣・葵上・清経」など舞台上に大きな作り物などが出ませんが情感を醸しだす曲が並んでいます。

このような分布は、現代特有なのか、江戸時代も同じなのか、将軍時期別ではどうなのか、順次グラフで見て行くこととします。

次回は、2025.2/15に第7部－2「江戸時代合計・秀吉＆1家康期・2秀忠期」を掲載する予定です。

引き続き第7部をご覧になる場合は「謡曲の統計7」から進んでください。