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その他 第7部-7 徳川将軍期別演能上位曲の比較

2025-04-26

これまで徳川将軍期別の演能回数のランク別グラフを見てきましたが、ここでは各期の上位曲推移と現代演能回数順位を一覧できる表を示します。表は、上位曲となった期数順とし、同じ期数は50音順としています。

掲載曲は、各将軍期別に上位曲として掲げた全78曲で、各時期の期間及びランク分け基準は第7部-1をご参照下さい。但し、13代家定期と14代家茂期は合算しています(前節14/14グラフ説明参照)。なお、現代順位は60年間(1950~2009)の観世流有料演能回数順位なっています。

各将軍期別の上位曲は期別総曲数に対し平均16%の厳選された人気曲となっています。(期別では、演能回数が20~30回の曲で、11~19%となっています。但し、第4代家綱期は24%・13家定33%・14家茂期38%と多くなっていますが、例外としました。)
 記号凡例
◎:10ランク以内  ○:11~15ランク
◇:16~20ランク  △:21ランク以下
現代順位のゴシックは30位以内の超人気曲です。
(参考:第11ランクは1位の曲の2/3の演能回数、16ランクは1/2、21ランクは1/3の演能回数となります。)

初めに全11期中で、4回以上も上位曲となった29曲の表を示します。(江戸計欄が上位曲となった期数)
この表に載った29曲は、江戸期で非常に多く演じられた曲になります。特に上からの21曲は、歴代将軍期別でほぼ半数以上の期で上位曲に入った曲となっています。全体的に現代でも多く演じられている曲が殆どを占めています。現代100以下の例外は「箙・兼平・張良・弓八幡」の4曲だけです。

これは、江戸時代に洗練された曲が現代の人気曲になっていることを示しています。時の為政者だった幕府の式楽として、また、武士の嗜みだった能や謡曲が現代に広く受け入れられていることの証左となっています。

該当期数等と合わせて見ると、8代吉宗期は、それまでの上位曲を引き継ぎながら、独自の選曲が後代に高く評価されていることが読み取れます。そして、10代家治期も上位曲の選定に他の将軍期との共通性の多さが確認できます。

また表をよく見ると曲によっては、江戸期を通じて頻繁に演じられた曲もありますが、江戸初期で頻繁に演じられた曲が必ずしも江戸中期以降で多くは演じられず、逆に江戸後期以降で頻繁に演じられた曲が江戸初期では多く演じられていなかった曲のあることも分かります。

次に、江戸全11期中で、3または2回上位曲となった曲の表を示します。
この表には、必ずしも他の将軍期で上位曲とならなかった曲を、その期で比較的に多く演能した曲が並んでいます。8代吉宗と10代家治の該当期数が7曲と多く、選曲の幅が広かったことが分かります。5代綱吉・6代家宣の「希曲好み」の影響で選曲の幅が広がった結果と思われます。現代演能回数を見ると、100位以下が8曲もあり、先の表に比べると、全体として現代の人気度が低くなっています。しかし、現代10位以内の超々人気曲に限ると、先の表と同じ4曲を含んでいます。ちなみに、先の表の現代順位平均値は53位で、上表の平均値は74位となっています。

最後に全11期中で、1回だけ上位曲となった曲の表を示します。なお、最初の現代のグラフに上位曲として掲げた曲(第7部-1)で、江戸期に上位曲に入らなかった曲も参考までに示しておきました。
この表では、その将軍期だけ他の期より多く演能された曲が載っています。4代家綱期が一番多くの6曲を数えています。選曲の背景が少し他の期と異なっていることを示しているようです。江戸初期3期の上位曲と少し異なる選曲をしながら、後代で必ずしも上位曲とはならなかった曲を多く選曲した結果となっています。

また、江戸中期以降では、江戸初期での上位曲を度々演能させ、独自選曲が行われなかった傾向があるように思われます。それだけ選曲眼が洗練されたからなのか、前例踏襲に傾いたのか、判断が難しいところです。

江戸時代で1期だけ上位曲となった曲の現代演能回数平均順位は91位となっています。前2表と比べて明らかに現代人気度が低くなっており、江戸時代と現代で曲別演能状況が似ていることが再確認できます。

次回は、2025.5/15に第8部-1「江戸時代の勧進能」を掲載する予定です。

引き続き第7部をご覧になる場合は「謡曲の統計7」から進んでください。

第8部「江戸時代の勧進能」をご覧になる場合は「謡曲の統計8」から進んでください。

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