江戸末期(1830~1868)の勧進能8件のうち、前半の4件(1839年迄)を示します。
1830文政13 金剛(野村) 曽根崎常舞台
神戸女子大:6日目冒頭に「興行人威徳三郎四郎」とある。
ゴシックはシテ方金剛流の野村三次郎直寛(1799~1870)がシテで、生涯に「道成寺」を60回も勤めたと伝わり、現在の野村金剛家に繋がっています。
①4/16翁 高砂 屋島 江口 藤栄 邯鄲 野守 呉服
②翁 絵馬 兼平 熊野 鞍馬天狗 小袖曾我 海士 岩船
③翁 和布刈 *実盛 千寿 土蜘蛛 *安宅 船弁慶 金札
④蟻通 経政 杜若 *道成寺 三輪 通小町 舎利
⑤竹生島 俊成忠度 野宮 是界 歌占 *玄象 烏帽子折
⑥碇潜 柏崎 飛雲 *藤戸 *鉢木 放下僧 乱
全45番(うち習い物曲6番)。金剛大夫14番(うち習い物曲は5番)。「翁」は前半にあって、後半になし。
威徳三郎四郎は江戸時代の宝生流座付の大鼓方威徳流(第8部-2後段参照)と思われ、主催者になっています。
1831天保2 観世清長 江戸幸橋 25日間
A:早稲田「勧進能番組(梅若誠太郎家旧蔵)」1日ごとの月日を朱で補記
B:法政大学「寛延・文化・天保勧進能図巻(鴻山文庫蔵)」番組はACと異なる所が多い。(詳細は後記)
C:古川久「幕末の観世勧進能」(演者の記載なし)初日10/16明六ツ半(午前7時頃)から始まり、夕七ツ頃(午後4時頃)まで。以下樋口秀雄「天保2年の勧進能」から引用【初日10月16日から、5日目の11月4日までで、観衆が多く畳場から入込場の大衆席はもちろん、通路まで群衆の混雑を極めたので、25日興行に延長し、札を割り直し、18日後の11/22に6日目の興行を挙行した。観覧者は初日~5日目は畳場で900前後、入込大衆席2500~3000。札割直し後6日目からは250内外、入込1500と半減。また、19日目の4/16は見物多く番組を変更】
D:観世文庫54/54「保2年江戸幸橋御門外勧進能興行場所図」番組は欠落。10/16~翌年6/26の観世21世清長の勧進能会場図面に、晴天15日間興行の予定が、会場が狭いなどの理由で25日間に延長された。また、表章氏『観世流史参究』398~407頁に番組についての詳細な検討があると記す。
ゴシックは観世21世左近清長(前節参)がシテ。
①10/16翁 高砂 田村 羽衣 船弁慶 祝言金札
②10/23翁 賀茂 八島 半蔀 夜討曾我 祝言養老
③10/26翁 嵐山 *実盛 熊野 大仏供養 祝言岩船
④10/29翁 氷室 経政 草紙洗 熊坂 海人
⑤11/4翁 代主 巴 雲林院 *安宅 殺生石
⑥11/22翁 竹生島 忠度 *松風 *弱法師 弦上
⑦11/25翁 右近 *鉢木 百万 善知鳥 大会
⑧11/29巻絹 橋弁慶 *隅田川 咸陽宮 舎利
⑨1832.1/16寝覚 *俊寛 吉野天人 *道成寺 車僧
⑩2/26小鍛冶 七騎落 桜川 *山姥 野守
⑪3/5邯鄲 土蜘蛛 雲雀山 鉄輪 融
⑫3/7西王母 俊成忠度 葛城 錦木 松山鏡
⑬3/16皇帝 芦刈 三井寺 *藤戸 烏帽子折
⑭3/25久世戸 忠度 蝉丸 春栄 合浦
⑮3/29輪蔵 兼平 源氏供養 鞍馬天狗 大瓶猩々
⑯4/9江島 生田敦盛 班女 夜討曾我 鵜飼
⑰4/11翁 大社 敦盛 *花筐 *望月 鍾馗
⑱4/19翁 道明寺 清経 竜田 阿漕 羅生門
⑲4/26翁 難波 景清 三輪 *石橋 張良
⑳5/16翁 志賀 知章 葵上 大仏供養 船弁慶
㉑5/23翁 東方朔 鵺 *砧 通小町 烏帽子折
㉒6/6翁 逆矛 小袖曾我 *遊行柳 熊坂 紅葉狩
㉓6/21翁 玉井 小督 唐船 *道成寺 項羽
㉔6/22翁 和布刈 *盛久 富士太鼓 *正尊 善界
㉕6/26翁 鶴亀 箙 住吉詣 安達原 乱
⑧~⑯の9日間は「翁」なし。全141番(うち習い物曲18番)。観世大夫34番(うち習い物曲9番)。大夫以外のシテの名に甚五郎・甚四郎・又五郎が見られます。
資料間で異なる部分はB(法政大学資料)に多く次のようになっています。
初日はBだけ船弁慶が抜けている。6日目はBだけ忠度が忠信となっている。9日目は3種とも異なる番組(A・Bには翁がない。脇能がAは寝覚、Bは弓八幡、Cは和布刈)となっている。
16~24日目はBだけ次のように大きく違っている。
翁がない。16日目の夜討曾我が女郎花になっている。17日目は望月と鍾馗はACと同じだが、他が蟻通 小袖曾我 井筒となっている。18日目はACの竜田だけ同じだが、他が玉井 清経 通小町 春日竜神となっている。19日目はACと同じ曲がなく、大社 敦盛 柏崎 葵上 第六天となっている。20日目もACと同じ曲がなく、道明寺 花月 砧 阿漕 谷行となっている。21日目もACと同じ曲がなく、逆矛 小督 唐船 自然居士 大江山となっている。22日目もACと同じ曲がなく、難波 知章 富士太鼓 鵺 紅葉狩となっている。23日目もACと同じ曲がなく、竜虎 景清 三輪 石橋 張良となっている。24日目はBだけ富士太鼓が杜若になっている。25日目はCだけ住吉詣・安達原・乱が、杜若・柏崎・猩々となっている。
1836天保7.10 観世宝生金剛 尾張大野舞台
神戸女子大より。黒ゴシックは観世流片山家4世九郎右衛門豊泰(真助・1843天保14没・60才)11番、赤ゴシックは宝生流の大野時太郎5番(生没年不詳)、黒細字下線は金剛流の野村三次郎(前出)11番、黒細字は流儀不明12番。
①10/19翁 高砂 田村 井筒 邯鄲 船弁慶 金札
②翁 白楽天 *松風 *鉢木 *藤戸 土蜘蛛 岩船
③翁 賀茂 屋島 *隅田川 *安宅 昭君 弓八幡
④初雪 *俊寛 放下僧 *道成寺 三輪 是界
⑤現在七面 満仲 *山姥 *望月 熊坂 海士
⑥*実盛 陀羅尼落葉 歌占 *弱法師 羅生門 乱
全39番(うち習い物曲11番)。「翁」は前半にあり、後半になし。観世11番(うち習い物曲6番)、宝生5番(うち習い物曲1番)、金剛11番(うち習い物曲3番)。黒細字のシテ12番の内訳は、山田亀六郎3番・木下重太郎3番・板倉与一郎2番、以下各1番、小川重三郎・都築熊太郎・小川源三郎・掘源兵衛(習い物曲の「山姥」)。
1839天保10.4 金剛(野村) 場所不詳
神戸女子大より。6日目番組末に狂言方の茂山千五郎引請とある。千五郎は興行主と思われ、1886明治19没77才。
ゴシックは金剛流の野村三次郎(前出)がシテ。
①4/5翁 高砂 箙 羽衣 *盛久 巻絹 紅葉狩 金札
②翁 難波 田村 熊野 善知鳥 羅生門 融
③翁 嵐山 巴 小塩 *道成寺 三輪 橋弁慶 呉服
④氷室 春栄 *松風 張良 通小町 *鉢木 海士
⑤蟻通 頼政 半蔀 *望月 *山姥 野守 熊坂
⑥賀茂 三井寺 小鍛冶 邯鄲 放下僧 夜討曾我 乱
全44番(うち習い物曲6番)。金剛大夫17番(うち習い物曲は3番)。「翁」は前半にあり、後半になし。
次回は、江戸末期の後半の番組を2025.8/30に第8部-8「江戸末期勧進能の番組2/2」を掲載する予定です。(脳梗塞の緊急手術で2週間ほど入院したため、今回の掲載がいつもより遅くなりました。)
引き続き第8部をご覧になる場合は「謡曲の統計8」から進んでください。



