その他 第8部-11 江戸時代勧進能での曲別演能状況
2025-10-11
江戸時代の勧進能を曲別の演能回数で見てみます。番組を把握できた勧進能は全部で20件・150日・188曲・1049番でした。曲目別に見ることで、江戸時代での人気曲と希曲の傾向を把握したいものです。このため、20件の勧進能を、短期勧進能・16件と、長期勧進能・4件に分けて見ることにします。短期の行事では観客受けする人気曲が多くなり、長期の行事では珍しい曲も演じられるだろうとの推測からです。
長短の区分は、7日間以下を短期とし、15日間以上を長期としました。短期が16件・80日・144曲・599番、長期が4件・70日・168曲・450番となっています。
最初は、勧進能で多く演じられた曲のグラフです。20件の勧進能で99回(番)も演じられた「翁」を除いて、7~19回演じられた上位46曲のグラフです。

グラフの右上は、短期と長期の勧進能のどちらでも非常に多く(最大19回=猩々・船弁慶)演じられた曲です。左下は、どちらでも多く(最小7回=羅生門など)演じられましたが、右上に比べると、やや少なく演じられた曲となっています。
翁を除いて10回(番)以上演じられた上位25曲を挙げておくと次のとおりです。
猩々・舟弁慶・道成寺・三輪・高砂・海士・邯鄲・紅葉狩(ここまで19~15回)・賀茂・松風・田村・安宅・実盛・熊野・熊坂・金札・融・羽衣・呉服(14~11回)・屋島・春栄・善界・野守・三井寺・山姥(10回)
このうち、ゴシックの17曲は江戸時代と現代を通じて上位25%の演能回数を数える不動の人気曲となっています。他の曲も賀茂・実盛・是界・野守・三井寺の5曲は江戸時代上位25%、現代で上位50%に入っており、呉服と是界は江戸時代で上位25%に入っていますが現代で下位25%に入っています。金札は江戸時代で上位50%から外れ現代でも下位25%に低迷しており、勧進能で祝言の曲として扱われていたようです。
青斜線は長短期の演能回数がバランスしている範囲を示しています。
斜線の内側は短期でも長期でも良く演じられた曲で、グラフの46曲中39曲・85%を占めています。人気のある曲は行事の性格を問わずに良く演じられていることが分かります。
線の外側は黒丸と赤字で示した曲で、長期と短期で演能回数がアンバランスになっています。
三輪は短期では16件中で15回も演じられていますが、長期では4件中の3回で、演じられない行事が1件ありました。高砂・呉服も同じ傾向にあります。やや儀式的に選曲された傾向が感じられます。
夜討曾我は長期では4件中で5回も演じられ(ひとつの行事で2回もある)、短期では16件中で3回しか演じられていません。大仏供養・嵐山・輪蔵も同じ傾向になっています。長期で多くの曲目を選択できる時には演じられますが、短期で曲数が限定される場合にはあまり選ばれない曲目だったようです。(長期での1件の行事当りの番数は37番、短期は112番となっています。)
次は勧進能での演能回数が中位の曲で、4~6回演じられた57曲のグラフです。勧進能全188曲中の上位47~104位の曲になります。

57曲のうち、長期・短期でバランスしている青斜線の内側に45曲・79%が入っており、前のグラフ同様に多くの曲が並んでいます。
長期で少なく短期で多い曲に6曲(国栖・白髭・白楽天・鵺・芭蕉・放下僧)があり、逆に長期で多く短期で少ない曲も6曲(阿漕・安達原・善知鳥。車僧・石橋・烏帽子折)あります。
最後に、江戸時代の勧進能で演能回数が3回以下と低迷した84曲の曲名を表にします。
上表で、長期と短期のどちらでも1回は演じられた曲は22曲・26%となっています。
また、長期で1回も演じられなかった曲が43曲・51%もあります。短期で複数回演能の緑色の28曲が、曲目の選択に余裕のある長期で演じられていないのは、長期の勧進能が4件しかないことに原因があるように思われます。
逆に短期で1回も演じられなかった曲が19曲・23%あり、長期で複数回演能の5曲を青色で示しました。こちらは現在鵺・谷行・初雪などやや特殊な曲が該当しているようです。(千手・歌占は短期では番数が少なく選曲に余裕がないための結果と思われます。)
ここまでで江戸時代の演能状況の記述は一応の終わりにします。第5部から始めた室町時代からの演能状況をまとめて見ることにも興味がありますが、明治時代を含めて現代までを曲別に一覧することを検討したいと思っています。
また、用語やトピックスについての索引もあったらいいのかなとも思っています。
このため、一覧表完成までしばらくの期間が必要となりますので、作業進行状況を月に2回の間隔で、第9部の予告として掲載することとします。
また、第6~8部で過去のブログを参照する記述の一部に、誤って旧第5部の節を示しておりましたが、それを今回の更新で修正いたしました。ご不便をおかけしてすみませんでした。(2025.10/15)
引き続き第8部をご覧になる場合は「謡曲の統計8」から進んでください。