これまで第5~8部で室町~江戸時代の演能状況を見てきましたが、これからは室町から現代までの演能回数について、曲別一覧表で提供することを目標とします。
室町・織豊・明治時代については新たな資料を参照することとします。
江戸時代のデータについては第6~8部で詳述したので、これを使うこととします。
現代については、これまで60年間のデータを使ってきましたが、期間を10年延長して70年間とし、昭和・平成に分けて把握することとします。
先ず、室町・織豊時代のデータについて見ておきます。
室町時代の曲別演能回数については、令和元年2019刊の「能楽手帳」(天野文雄著・角川ソフィア文庫)に江戸・明治期の採用流儀も合わせて掲載されています。曲目別に、作者と上演史・展開(粗筋)・素材・作意・演出等が見開き2頁で記述され、非常に使いやすい内容となっています。
天野文雄氏は、1996年に「翁猿楽研究」で観世寿夫記念法政大学能楽賞を受賞し、2013年刊の「能を読む」(梅原猛・観世清和監修・角川学芸出版)で土屋恵一郎・中沢新一・松岡心平と編集を担当しており、1946年生まれの現在活躍中の能楽研究者です。
「能楽手帳」には200曲が所収されています。その内訳は現行曲189曲、非現行の複曲等が11曲となっています。(現行曲は第1部-1で異名同曲などを整理して248曲としています。)非現行曲は、阿古屋松・鵜羽・逢坂物狂・碁・維盛・敷地物狂・重衡・多度津左衛門・丹後物狂・箱崎・布留です。現行曲から所収が外れた59曲は、現代で余り演能される機会が少ない曲としています。
能楽手帳には室町と織豊時代を合算した演能回数を室町時代として掲載されており、前書きで「能楽源流考」などを参照したと記しています。「能楽源流考」は能勢朝治著で、戦前の昭和13年1938に岩波書店から刊行され、国立国会図書館デジタルコレクションで閲覧が可能となっています。そこでは演能年月日が読み取れるので、室町と織豊の区分が可能になります。
外縁観測では、室町と織豊を分けて演能回数を把握したいので、源流考の数字も参照することとします。そこで、手帳と源流考での回数の違いを示しておきます。
手帳で示された曲と差のあるのは9曲となっています。このうち次の8曲は、天野氏がその他の資料から補って回数を増やしているので、その数字を使用することにします。
敦盛5→10~19回、熊坂6→7、逆矛1→2、鷺0→1、泰山府君2→3,谷行1→2、天鼓6→7、養老8→12。
逆に関寺小町だけは、秘曲扱いで室町時代での演能記録はないとしていますが、源流考では9回の記録が確認できるので、これを採用します。
また、手帳で収録されていない曲で源流考に記載されている現行曲が8曲あります。その曲名と室町+織豊での演能回数は次の通りです。
大社2回、落葉2回、葛城天狗4回、俊成忠度1回、仲光2回、寝覚2回、御裳濯8回、吉野静4回。
現行曲で能楽手帳に所収されていない59曲のうち、11曲については能楽源流考で室町・織豊期の演能回数が記載されています。その50音順の曲名と合計回数は次の通りです。
飛鳥川1、愛宕空也1、大社2、落葉2、元服曽我3、七騎落6,誓願寺25、調伏曽我2、仲光2、寝覚2、吉野静4。
能楽手帳と源流考で記録のない現行48曲のうち、現代70年間で演能記録のある曲が24曲あります。その曲名と回数は次の通りです。
藍染川7、碇潜187、岩船234、梅110、木曽116、楠露、30、現在七面57、三笑92、俊成忠度197、代主4、住吉詣33、禅師曽我9、大仏供養90、大瓶猩々86、第六天22、忠信15、唐船103、鳥追舟69、錦戸8、藤131、枕慈童45、水無月祓144、身延15、六浦96。
ゴシックは70年間で約70回(=年平均1回)以上演能の13曲です。希曲としては、70年間で15回(≒年平均0.2回)以下が5曲あります。
現行曲で能楽手帳と能楽源流考で記録がなく、現代70年間でも集計対象外となっている24曲は、次の通りです。採用流儀の観世・宝生・金春・金剛・喜多を一字で略記します。
内外詣:剛、鵜祭:春、鱗形:剛喜、葛城天狗:喜、祇王:宝剛、草薙:宝、現在忠度:剛、現在鵺:剛喜、佐保山:春、佐渡:春、墨染桜:剛、関原与市:喜、大典:観、竹雪:長柄:春、飛雲:、彭祖:剛、松尾:宝、松山天狗:剛、水無瀬:喜、御裳濯:春、山姫:喜、雪:剛、籠祇王:喜。
現代70年間の演能回数は月刊「観世」記載の有料公演を対象としているので、観世非採用の曲が集計対象から外れています。また、観世流の大典は天皇即位奉祝能のため集計対象外となっています。(詳細はWeb大角征矢氏「謡曲の統計学」参照)
次回は2025.11/30に第9部-3「能楽源流考の室町演能データ」を掲載する予定です。
引き続き第9部をご覧になる場合は「謡曲の統計9」から進んでください。



