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その他 第9部-10 室町~現代演能状況の推移

2026-03-09

 室町~現代の曲別演能回数一覧表を示す前に、前節で掲げた表から各時代の演能状況全体を眺めておきます。
 最初は各時代における演能の曲目数の推移です。(現行曲に限っています。)
 一見して言えることは、能の演目数は時代を追うごとに増加していることです。但し、既に何度も指摘したように、現行曲の95%以上は室町時代に創作されたことを忘れてはなりません。グラフ曲数の増減は演能記録から見たもので、素謡を楽しむなどの要素は入っていないことに留意して下さい。
 世阿弥の活躍した室町初期では演能が確実とされる曲目は非現行曲を除くと93曲となっています。その後、室町後期までで150曲に増加しましたが、織豊期の演能は122曲に減少しています。
 織豊期で122曲まで減少したのは、集計対象期間が短いためと思われます。また、記録の大部分を占める金春流・下間少進の能之留帳に偏った影響もあります。江戸初期には167曲まで復し、江戸中後期では、能楽が幕府の式楽となり、5代綱吉・6代家宣将軍の希曲好みの影響もあって、228曲に増大しています。明確な演能の記録はありませんが室町期に創作された曲がこれらの供給源となっており、明治期にあっては存亡の危機を迎えながら多くの曲の存続が図られて204曲を記録し、現代では更に多くを復曲させて248曲(5流での採用曲)まで増加させています。江戸時代~昭和で新しく作られた曲は7曲だけで、他の曲目の増加は全て昔の曲を復活させたものです。
明治以降にも数々の新曲が作られましたが、継続的に演能される曲は極めて稀で、殆ど全部が現行5流には採用されていないのです。この不可思議な現実は、それだけ歴史に耐えた室町の曲の完成度が高いためと思われます。日々新たな演出を工夫し、芸の完成度を高める努力を続けている能楽師を目にすると、伝統を尊ぶあまり新曲を拒んでいるとは思われません。

 次に各時代における演能番数の推移を見てみます。
なお、室町初期は演能回数データが得られないので省略してありますが、室町初期で演能確実な曲が93曲名あるので、室町中期の演能回数記録が曲名数の約2倍であることから、同様の状況と仮定すれば初期は186回と想定できます。しかし、グラフには載せてありません。
 このグラフは各時代における演能記録が把握できた番数であり、時代によってその記録状況や把握率が異なり、対象期間の長短もあり、単純に比較できないものですが、おおよその傾向は現れていると思われます。
 室町時代からの演能は時代が進むとともに増加し、江戸時代でジャンプして、明治の停滞を経て、戦後は桁違いに増加しています。

 次に各時代の年間平均演能番数(回数)のグラフを示します。
 記録期間別の年間平均演能番数のグラフを見ると、室町中期から後期にかけては10倍となり、織豊では更に倍増し、江戸初期も3割増となる驚異的な普及・進展が見られます。江戸中後期ではやや減少が見られますが、明治期では壊滅的な状況から復活して記録期間限定では過去最高の頻度を記録しています。戦後の昭和・平成では更に15倍以上に増加しています。現代は空前の能楽盛況時代となっているように見えます。(但し、新型コロナの影響は甚大であり、グラフ以後の現在の状況は、半減しているかと思えるほど深刻になっています。)
 なお、それぞれの記録期間には様々な事情が絡んでおり、部分的には上の表現とは違う状況があり、大雑把な捉え方と言えます。
 例えば、織豊期の記録は下間少進の能之留帳という特殊な記録の占める影響が大きいこと、昭和も戦後間もない時期を除けばもっと多くなり、平成の方が少なくなること、などが指摘できます。(現代70年間の推移は別途の検討が必要と思っています。)

次回は、2026.3/31に第9部-11「室町~現代曲別演能回数一覧表」を掲載する予定です。

引き続き第9部をご覧になる場合は「謡曲の統計9」から進んでください。

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