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その他 「能楽」外縁観測第2部-6 昔の作者考 

2021-05-11

 室町期~明治中期の作者考としては、数種類が編纂されています。これらは、世阿弥伝書が一部の例外を除けばほとんど世に広まっておらず、はなはだ信頼性の低い、「作者付け」となっていました。

 外縁観測第2部の冒頭に示した「室町期の作者付け」グラフは、世阿弥没の約80年後と比較的早い時期に成立した「能本作者注文」(1524年室町後期)での作者別曲数と全体の構成比を示したものでした。

 昔(室町~明治)の作者付け資料は他にもあります。以下に、その種類を示します。

①(金春)自家伝承:
1516年(室町後期の戦国時代)
世阿弥没後約70年

金春禅鳳から相伝された常門(じょうど)孫四郎吉次編とされる。観世信光・長俊父子の作を含まず。金春系作者付けに意義。346番記載。金春偏重で客観性に欠け、全般に信頼性が低い。禅鳳作は的外れが多い。佐阿弥、十二次郎作を挙げる特徴あり。

②能本作者注文:
1524年(室町後期・戦国時代)
世阿弥没後約80年

観世小次郎長俊(1488~1541年・音阿弥の孫)の直談に基づく、神道家の吉田兼将(かねまさ)編。350番(世阿弥155、観世信光31、観世長俊25、金春禅竹18、金春禅鳳5曲など)を掲出。①の自家伝抄より信用度高く、観世信光・長俊父子、金春禅鳳世代の有力資料。禅竹・宮増・世阿弥作については、別途検証が必要。三条・竹田・内藤・河上など素人作を挙げる特徴あり。

③いろは作者注文:
1578~1594(戦国~安土)
世阿弥没後約150年

編者不詳。755~758番。(伝本種類により幅あり)いろは順に記載。当時の曲名資料に意義。先に成った観世小次郎注文・観世弥次郎注文を参考にしている。②の能本作者注文に近い異本で、伝本間の補完に有効。明治期の⑥歌謡作者考、⑦異本謳本作者などの祖本。

④享保6年書上(かきあげ):
1721年(江戸中期)
世阿弥没後約280年

能の36家(シテ方、ワキ方、笛方、小鼓方、大鼓方、太鼓方、狂言方の各流)が幕府へ4ヶ月間で分散提出した報告書。家の由緒、能作者などを記す。作者付けとしては、世阿弥の「五音」を参照した観世大夫書上と、金春弥左衛門書上が代表的。全般的に世阿弥関係を始めとして信頼性は乏しい。

⑤二百拾番謡目録:
1765年(江戸中期)
世阿弥没後約320年

15世観世元章(もとあきら)著。210曲(内100、外100・習い10曲)。独吟・蘭(らん)曲の85曲を付す。④享保6年書上、②能本作者注文、①自家伝抄などを参照しており、作者考での新味はない。元章は、明和改正謡本(死後に廃止)の刊行(1765年)や、装束・作り物・小書き(能の特殊演出)・作り物(舞台上に出す仮設物)など演出面での改革は、現在に活かされている。「梅」の作者。

⑥歌謡作者考:
1888年(明治21年)
世阿弥没後約450年

③いろは作者注文の抄本

⑦異本謳曲作者:
明治中期頃

⑥歌謡作者考の姉妹本

 これらの資料は、「作者不明で優れた作品は世阿弥さん」といった傾向があり、現在ではそのままには信用されていません。とはいえ、火のないところに煙は立たずで、それなりの根拠があって作成されたと見て、作者付けの種類ごとの性格や、相互の異同などに注目して、現在も作者選定の傍証資料として参照されています。
 また、曲名の多さも注目されています。

次の項目など、引き続き「能楽外縁観測第2部」をご覧になる場合は「謡曲の統計2」から進んで下さい。

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